道に志し、芸に游ぶ

中国・北京在住(2018.8~)。主に読書記録。歴史/社会/言語/教育関係がメイン。

(読書記録)田中宏『在日外国人 第三版―法の壁、心の溝』岩波新書

昨年12月、臨時国会において「 出入国管理及び難民認定法入管法)」が改正され、出入国在留管理庁が設置されるとともに、新たな在留資格「特定技能」が創設されました。今後、「労働力」としての外国人の来日が期待される流れのなか、その基礎となる制度概要とその歴史について勉強不足だったので、この新書を手に取りました。

著者は、外国人の日本への入国や日本での生活をめぐる諸問題の第一線で活動してきた方。章立ては以下のとおりです。

 序章 アジア人留学生との出会い

Ⅰ 在日外国人はいま

Ⅱ 「帝国臣民」から「外国人」へ

Ⅲ 指紋の押捺

Ⅳ 援助から除かれた戦争犠牲者

Ⅴ 差別撤廃への挑戦

Ⅵ 「黒船」となったインドシナ難民

Ⅶ 国際国家のかけ声のもとで

Ⅷ 外国人労働者と日本

終章 ともに生きる社会へ

 1947年の「外国人登録令」によって旧植民地の人々(朝鮮人、台湾人)が「外国人」とみなされ、戦禍に対する補償の対象とならなかったのを端緒に、制度や補償が成立しても、外国人はその網目から抜け落ちてしまう歴史が繰り返されてきたことがわかります。憲法もそうですが、多くの法令には制度や権利の享受主体として「国民」と記されており、外国人はその対象に含まれないと解されてきたためです。

さまざまな資格についても、たとえ試験に受かったとしても、その後この「国民」条項により進路が阻まれてしまったのでした(筆者はその「法の壁」に苦しむ外国人を救うロビイングに従事してきました)。

筆者の尽力や、日本の国際人権規約への加入もあり、こうした「国籍要件」「国籍条項」には順次改正がなされ、国民年金法をはじめ、法律名こそ変わらないものの「国民」ではなく「住民」を対象とする形に変容していきました。が、こうした変化が条約や国際情勢など、外的原因(筆者は「黒船」と表現しています)によってようやく生じたことは銘記する必要があると指摘しています(p.174)。

 また、第8章では技能実習についても触れられ、「“国際貢献”という看板ではなく、労働者人口の減少がつづくことを踏まえ、外国人労働者の権利保障を盛り込んだ外国人労働者政策を真剣に検討すべきではないだろうか」と指摘しています(p.248)。今回の法改正がまさにそのような制度設計になるのかが重要と思います*1

 この本から得た示唆として、まず、多くの論者によって指摘されていることですが、今回の法改正を受けて日本はますます「多文化共生社会」の構築を本格的に進めていかなければならないと感じます。

共生、つまり「ともに生きる」方途として、制度面と意識面の両面から、外国からの方が網目から漏れることのない社会が必要となると思います。制度面は社会保障参政権など。これは立法や行政によるものですが、合わせて、あるいはそれ以上に、人々の意識も変わることが必要でしょう。

外国人労働者はもはや「よそ者」ではなく、ともに生きていく隣人となります。文化や慣習の違いから衝突が起こる場面も出てくるはず。そうしたときに相手を自分とは違う「他者」と認識しつつ、(差別するのではなく)歩み寄りあって落としどころを探る必要がますます出てくると思います。これは日本語能力の問題だけではないと思います。外国の方に日本で円滑に生活することができる日本語能力を求めることも必要ですが(それが彼らにとって有利にもなりますので)、日本人の方も歩み寄って対話する姿勢が一層必要になると思います。

2つ目に、もしかしたらすでに中央省庁内では検討が済んでいるのかもしれませんが、諸外国の制度から得られるインプリケーションもあるのではと思います。

例えばお隣の国、韓国では、「外国人処遇基本法」が制定され、また国際人権規約を受けて国際人権委員会も設置されるなど、外国人労働者の人権を保障し、それを侵犯する行為を統御する仕組みが構築されています(p.270)。同法のなかでは「質の高い社会統合」が重点的推進課題とされ、多文化への理解増進が謳われています*2。こうした隣国の取り組みは大いに参考になるのではと思います。

縦割りを越えて、官民を越えて、働きに来る外国の方を温かく迎えられる制度と意識を構築・醸成していくことが必要ではと考えます。と、大口をたたく前に、まずは自分も一つずつ学び、できることを始めていきたいと思います。